公共施設等総合管理計画を見直せない自治体の課題

公共施設等総合管理計画とは、自治体が保有する公共施設等の管理方針を定める計画です。全国のほぼ全ての自治体で策定済みですが、実際に見直しを回せている自治体は多くありません。本記事では、その理由と具体的な進め方を、施設所管課の職員視点で解説します。

1. 公共施設等総合管理計画とは|対象範囲といま改訂で問われていること

公共施設等総合管理計画が対象とする「公共施設等」は、学校や公民館などのハコモノに限りません。道路・橋りょうといった土木構造物や、上下水道などの公営企業施設、廃棄物処理施設まで含む包括的な概念です。

出典: 総務省「公共施設等総合管理計画の策定にあたっての指針」

総務省が定める「公共施設等」の範囲(ハコモノ・橋梁・上下水道まで含む)

多くの職員は「公共施設等」と聞くと、まず学校や公民館、公園を思い浮かべます。しかし総務省の指針では、橋りょうや上下水道施設も同じ枠組みで管理することが求められています。担当課をまたいで情報を扱う前提の計画だと理解しておくことが、最初の一歩です。

個別施設計画・インフラ長寿命化基本計画との関係

個別施設計画とは、施設・インフラの種類ごとに、より具体的な対応方針を定める計画です。公共施設等総合管理計画が全体方針、個別施設計画が施設類型ごとの実行計画という位置づけになります。両者はインフラ長寿命化基本計画という国全体の方針のもとに連なっており、公立学校施設の個別施設計画策定率は令和5年3月31日時点で99.2%に達しています。策定率の高さだけを見ると順調に思えますが、問題は「作った後」にあります。

出典: 公共施設等の適正管理について


2. 計画は作った。なぜ「見直せない」のか

計画の見直し自体は、令和6年3月末時点で97.8%の団体が完了しています。しかし見直しの中身が、点検・診断の履歴に基づいた実質的な更新になっているかは別の話です。

出典: 公共施設マネジメントと地方公会計の連携について

指針が求める「点検・診断等の履歴の集積・蓄積」ができていない

総務省の指針は「点検・診断等の履歴を集積・蓄積し、総合管理計画の見直しに反映し充実を図る」ことを求めています。前述の指針では、維持管理・修繕・更新等の履歴を老朽化対策に活かすべきとも述べられています。ところが実際には、点検記録が個人のパソコンにしか残っておらず、次の見直しに使えないケースが目立ちます。

施設類型ごとの縦割りで、情報が全庁に共有されない

指針は「現状、施設類型ごとに各部局において管理され、必ずしも公共施設等の管理に関する情報が全庁的に共有されていない」と明確に指摘しています。学校は教育委員会、公園は公園緑地課、空き家は住宅政策課というように担当が分かれ、同じ「施設の老朽化」という問題を全庁で共有できていないのが実情です。

Excel台帳・紙記録の限界|自治体ヒアリングで見えた実態

ベイシスコンサルティングが2026年7月に全国の自治体へ電話ヒアリングを実施したところ、空き家の件数すら正確に把握できていない自治体が大多数でした。人口減少に伴い空き家の件数も増えていく一方なので無理もありません。記録の多くはExcelで担当者のパソコン内に置かれており、異動のたびに引き継がれずに失われています。一部の自治体は地図システムを導入していますが、地図に載せるところで止まり、日々の巡回記録とは連動していません。


3. 計画を回すための5つの段階

計画を実質的に回すコツは、全施設を一度に点検してから始めようとしないことです。総務省の指針も「まずは現段階において把握可能な公共施設等の状態を整理し策定されたい」としており、完璧な現況把握を前提にしていません。

まず台帳のデジタル化から始めてよい(全施設を点検してからでなくてよい)

最初のステップは、既存の台帳をデジタル化し、地図上に表示することです。この段階では新たな点検を待つ必要はなく、今ある情報を整理するだけで着手できます。

履歴の紐づけと、職員の巡回記録をその場で残す

次に、施設ごとの現況写真や対応履歴を保管し、職員の巡回・点検記録をスマートフォンでその場に残す段階に進みます。これにより、指針が求める「履歴の集積・蓄積」が自然に積み上がっていきます。

住民からの通報(任意)と、議会報告までの集計

さらに進んだ段階として、住民からのQRコード匿名通報を受け付ける仕組みを追加できます。これは必須ではなく、自治体の判断で導入するかどうかを選べます。最終段階では、蓄積したデータを集計し、議会報告資料として活用します。指針も「評価結果等の議会への報告や公表方法についても記載することが望ましい」としており、この一連の流れは指針の求める内容と合致しています。


4. どの施設に使えるか|平常時と災害時

同じ仕組みは、平常時の施設管理と災害時の避難所運営の両方に使えます。平常時に使い慣れていない仕組みは、災害時にも使われません。これが最大のポイントです。

平常時:学校・公民館・公園・駐輪場・空き家

平常時は、公園であれば遊具やトイレを1つずつ登録して点検する用途に使えます。滑り台とブランコを別々に登録し、それぞれの現況写真を残すといった使い方が可能です。この機能は2026年10月の完成を予定しており、駐輪場についても自転車駐車場整備センターとの実証を同時期に開始する計画です。同センターは全国728箇所・44万台の駐輪場を管理しており、まずは職員だけで使う設計から始める予定です。

災害時:避難所の受入人数の把握と物資管理

災害時には、同じ仕組みを避難所の受入人数把握や物資・備蓄の管理に転用できます。平常時の点検で使い慣れた操作を、避難所運営でもそのまま使える点が実務上の負担軽減につながります。

土木構造物でも同じ仕組みが成立する(橋梁点検の実証例)

橋では、この仕組みが既に実証されています。京都府大山崎町では、担当者の異動と委託費の不足をきっかけに橋梁点検の実証を実施し、多いところで業務量が約8割減という結果が出ました。資料を取るだけでなく、調書まで町の職員が自分たちで作れるようになった点が大きな変化です。この実証には全国15自治体が協力しており、2026年7月31日には大山崎町の環境事業部長が自ら取り組みを語るオンラインセミナーも開催されています。

以下の比較表は、従来の管理方法とデジタル化後の違いを整理したものです。

項目従来の管理デジタル化後
台帳紙・部署ごとのExcel地図上で全庁共有
点検記録担当者のPC内スマホでその場に記録
住民対応電話・窓口対応匿名通報(任意)
議会報告手作業で集計自動集計
災害時別システムを新規導入平常時と同じ仕組みを流用

こうした段階的な仕組みは、公共施設マネジメント(サポ楽・平常時×緊急時)として自治体向けに提供されています。


5. 現場から出た心配ごとにどう答えるか

現場からは、住民通報の仕組みに対していくつかの懸念が寄せられています。これらは制度設計で対応可能な範囲のものがほとんどです。

QRコードや住民への開放は必須ではない

空き家にQRコードを貼る場合、所有者の許可を取る手間を懸念する声があります。しかし住民通報の機能自体は任意であり、まず職員だけで台帳・点検記録を使う運用から始めることができます。住民への開放は、必要になった段階で検討すれば十分です。

匿名の通報は、電話と違って折り返しの義務が発生しない

「気軽に通報できると職員の仕事が増える」「いたずら通報が増える」という懸念も聞かれます。ただし匿名通報は、電話と異なり折り返し対応の義務が発生しません。通報内容を記録として蓄積し、必要な案件だけ後で対応する運用に切り替えられる点が、電話対応との大きな違いです。


よくある質問

Q. 公共施設等総合管理計画の見直しは何年ごとに必要ですか。

A. 法令で一律の年数は定められていませんが、総務省は点検・診断の履歴を反映しながら継続的に見直すことを求めています。各自治体の実情に応じた頻度で見直す運用が一般的です。

Q. 個別施設計画がなくても総合管理計画は機能しますか。

A. 総合管理計画は全体方針、個別施設計画は施設類型ごとの実行計画という関係にあります。両方が揃って初めて、老朽化対策の具体的な優先順位が見えてきます。

Q. 小規模自治体でも段階的な導入は可能ですか。

A. 可能です。台帳のデジタル化から始め、点検記録・住民通報・議会報告へと段階的に広げる設計のため、職員数が少ない自治体でも着手しやすい仕組みです。

Q. 予防保全型維持管理とは何ですか。

A. 予防保全型維持管理とは、損傷が軽微な早期段階に予防的な修繕等を実施し、機能の保持・回復を図る管理手法です。事後保全に比べて修繕費を抑えられる可能性があります。


まとめ

本記事の要点は次の3つです。

  • 公共施設等総合管理計画は、ハコモノから橋りょう・上下水道まで含む包括的な計画である
  • 見直し率97.8%という数字の裏で、点検履歴の蓄積と全庁共有が課題として残っている
  • 台帳デジタル化から議会報告まで、5段階で無理なく着手できる

公共施設マネジメント(サポ楽・平常時×緊急時)は、この5段階を平常時・災害時の両方で使える仕組みとして提供し、施設所管課の負担を段階的に軽減します。

公共施設マネジメント(サポ楽・平常時×緊急時)について、詳しくはお問い合わせください

貴自治体では、公共施設等総合管理計画の見直しに必要な履歴データを、すでに蓄積できていますでしょうか。