砂防関係施設点検要領(案)令和7年改正のポイントを解説|実務担当者向けガイド

令和7年(2025年)4月、国土交通省砂防部保全課から「砂防関係施設点検要領(案)」が改訂・発出されました。平成26年の策定以降、数次の改訂を経ており、前回(令和4年3月)から約3年ぶりとなる今回の改訂は、「砂防関係施設の長寿命化計画策定ガイドライン(案)」を前提として、点検と健全度評価の方法を一体的に整理したものです。

本記事では、都道府県・市町村の砂防担当職員、コンサルタント、点検業者の方々に向けて、改正の主なポイントを実務目線で解説します。

1. 改訂の背景と目的

砂防関係施設は出水・地震による損傷や経年劣化が生じやすい一方、
多くが山間部・島しょ部など進入困難な場所に立地しており、点検・維持管理に課題が残っていました。

令和4年に長寿命化ガイドラインが策定され、壊れてから修繕する「事後保全」から、損傷が小さいうちに対処する「予防保全型維持管理」への転換が明確に打ち出されました。
今回の令和7年版要領は、この長寿命化ガイドラインで示された「修繕・改築・更新の年次計画策定フロー」のうち、「施設の点検」と「施設の健全度の把握」の方法を定めるものとして発出されています。

2. 点検の種類と体系

2-1. 定期点検・臨時点検・詳細点検の3分類

令和7年版では、点検を以下の3種類に体系化しました。

定期点検
計画的な時期・周期ごとに実施する基本的な点検。「近接点検」と「遠望点検」を組み合わせることを基本とし、UAV(ドローン)の積極的な活用が推奨されています。

臨時点検
豪雨・地震等の災害発生後、できるだけ早い時期に緊急で行う点検。安全性を確保したうえで、定期点検に準じた方法(近接または遠望)で実施します。

詳細点検
定期・臨時点検で変状の程度や原因の把握が困難な場合に実施する追加調査。必要に応じて計測・打音・観察等を組み合わせて実施します。

2-2.「巡視」と「点検」の明確な区分

従来(平成16年通達)では「定期(臨時)巡視点検」として巡視と点検を一体的に扱っていましたが、令和7年版では日常的な見回りを指す「巡視」と、本格的な調査である「点検」が明確に区別されました。
この区分により、日常巡視で確認すべき事項と、定期点検で記録・評価すべき事項の役割分担が整理されています。

3. 健全度評価の仕組み

3-1. 施設の健全度:A・B・Cの3段階

点検結果をもとに、施設全体の健全性を次の3段階で評価します。

健全度区分内容
A対策不要損傷がないか軽微であり、機能・性能の低下が認められない
B経過観察損傷はあるが早急な対策は不要。定期点検等で継続的に経過観察する
C要対策損傷があり、機能の低下または安定性・強度の低下が懸念される

健全度Bは「問題はないが将来的に対策が必要になるおそれがある」状態です。予防保全の観点から重要な区分であり、記録・管理を継続することが求められます。

3-2. 部位の変状レベル:a・b・cの3段階

施設を構成する各「部位」ごとに、変状の程度を変状レベルa・b・cで評価します。

  • レベルa:変状なし、または軽微な変状で性能低下が認められない
  • レベルb:変状はあるが早急な対策は不要。経過観察が必要
  • レベルc:変状があり、安定性・強度の低下が懸念される

各部位の変状レベルと施設周辺の状況を総合して、施設全体の健全度(A/B/C)を判定するという二層構造が、今回の改訂で整備されています。

3-3. 点検頻度の目安

  • 健全度A(対策不要)の施設:点検間隔は最長10年以下
  • 健全度B(経過観察)・C(要対策)の施設:5年以下を原則

遠望点検(UAV等)を定期点検の主体とする施設でも、健全度Aは10年に1度、B・Cは5年に1度、近接点検または同等の方法で状態を確認することが求められています。

4. UAV(ドローン)活用の体系化

4-1. 遠望点検の主体としてのUAV

令和7年版のもうひとつの大きな特徴が、UAV(ドローン)を定期点検における遠望点検の主体として正式に位置づけた点です。
同時に「砂防現場におけるUAV自律飛行点検マニュアル(案)」(令和7年3月)も発出されており、自律飛行による体系的な点検が推進されています。

UAV点検の主なメリットは以下のとおりです。

  • 人が入りにくい急峻な地形や高所でも安全に点検できる
  • 広範囲の施設を短時間で効率的に確認できる
  • 定点写真・動画の蓄積により、経年的な変化を比較しやすい
  • 堆砂地や周辺地山の状況を俯瞰的に把握できる
  • 災害発生後の臨時点検に機動的に対応できる

4-2. 施設種別によるUAV活用の適否

UAV点検が特に有効な施設

  • 砂防堰堤・床固工(堆砂状況・本体損傷の把握)
  • 渓流保全工(広範囲の河道状況把握)
  • 山腹工・法面工(面的な変状の把握)
  • 臨時点検時(災害後の被災状況の広域確認)

UAV点検が不向きな施設・状況

  • 地すべり防止施設の地下構造物(集水管・排水トンネル内部)
  • 急傾斜地崩壊防止施設の擁壁工(家屋隣接が多く手続きが煩雑)
  • 樹木が密集している箇所・GPS信号が不安定な場所

4-3. 法令・手続き面の留意点

  • 航空法:機体登録(100g以上)、DIPSによる飛行許可申請
  • 電波法:技適マーク確認(特に輸入機は注意)
  • 情報セキュリティ:飛行時のインターネット接続禁止、データ流出防止
  • 民地・国有林上空飛行時の承諾取得
  • 猛禽類保護エリア等、特別規制区域の事前確認

5. 改正前後の主な変更点

項目従来(平成16年通達ほか)令和7年版
点検の分類定期(臨時)巡視点検が中心定期・臨時・詳細の3分類を明確化
巡視との区分巡視と点検を一体化「巡視」と「点検」を明確に区分
健全度評価基準が整理不十分A/B/Cの3段階+変状レベルa/b/cで体系化
遠望点検記述が限定的UAVを主体とした遠望点検を標準に位置づけ
UAV活用参考的な記述にとどまる施設別の適否・法令手続き・安全管理を詳述

6. 実務担当者が対応すべきポイント

既存の点検計画の見直し
既存の点検計画を令和7年版の基準に照らして見直す必要があります。
特に施設ごとの健全度区分(A/B/C)を把握し、次回点検の時期と方法(近接か遠望か)を再設定することが優先課題です。

UAV運用体制の整備
UAV点検を本格活用するには、機体登録・DIPS申請・情報セキュリティ対応など事前準備が不可欠です。
導入にあたっては「砂防現場におけるUAV自律飛行点検マニュアル(案)令和7年3月」も併せて参照してください。

点検データの一元管理
3分類の点検結果・健全度評価・写真・UAVデータを一元的に管理するデジタルツールの活用が求められます。
施設台帳・被災履歴・点検個票を連携させることで、長寿命化計画の策定に必要なデータ基盤を整えられます。
ベイシスコンサルティングの「サポ楽」では、これらのデータをクラウド上で一元管理できます。

まとめ

砂防関係施設点検要領(案)令和7年版の主な改正ポイントを整理すると、次の3点に集約されます。

  1. 点検の体系化:定期・臨時・詳細の3分類を明確化し、「巡視」と「点検」を区分
  2. 健全度評価の標準化:施設はA/B/C、部位はa/b/cで評価する二層構造を整備
  3. UAV活用の本格化:遠望点検の主体としてUAVを正式位置づけ、自律飛行マニュアルも同時発出

マニュアル発出直後の今が、点検体制を見直す最適なタイミングです。
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参考資料:砂防関係施設点検要領(案)令和7年4月 国土交通省砂防部保全課